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2022.02.25
菊間 千乃(弁護士・公認不正検査士)

ゴルフクラブ預託金返還請求について

 ゴルフクラブの預託金返還請求については、平成11年に最高裁判決が出たことにより、一応の決着を見るに至ったと言われていますが、それ以前には、一部預託金の据置期間の延長決議を有効とした裁判例も散見されました。近年、当該延長決議が有効とされたゴルフクラブ等において、再び据置期間を延長しようとする動きがあるため、預託金を巡る問題についてお伝えします。

1.預託金会員制ゴルフ会員権とは
 ゴルフクラブ自体は、一般的には権利義務の主体となり得る法的地位を持たないため、入会希望者は、ゴルフクラブの運営会社との間で入会契約を締結します。
 すなわち、ゴルフクラブの施設を優先的な条件で利用することを希望する者が、預託金と称する入会金を支払って、ゴルフクラブの運営会社との間で同会社が定める会則に従うことを承認して、入会契約を締結した場合には、ゴルフクラブ運営会社との間に、ゴルフクラブ施設の優先的利用権および預託金返還請求権ならびに年会費支払い義務等を包含した債権的法律関係が発生します。このような債権的法律関係に基づく入会者の地位を預託金会員制ゴルフ会員権といいます(最三判昭50.7.25民集29巻6号1147頁)。

2.預託金をめぐる争い
 ゴルフクラブによりますが、預託金は5年ないし10年等の据置期間が会則に定められており、一般的には、据置期間経過後に、退会の申し出をすれば、会員資格の喪失と引き換えに、当該会員に預託金が返還されるという流れになっています。
 会員権が譲渡されると、預託金返還請求権も譲受人に引き継がれます。ゴルフ会員権の市場価格が預託金を上回っていれば、退会希望者は第三者に会員権を売却することで資金回収をはかるため、ゴルフクラブに対し預託金返還を請求するという事態にはなりません。しかし、ゴルフ会員権の市場価格が暴落し、市場価格が預託金額を下回るようなことがあれば、退会を希望する会員は、会員権を売却するよりは、退会をして預託金の返還をゴルフクラブに求めたほうが良いですよね。そうして、オイルショックやバブル崩壊の後に、多数の会員が預託金返還をゴルフクラブに請求したことで、ゴルフクラブ運営会社の経営状況が悪化したため、各ゴルフクラブの理事会等で据置期間の延長決議がなされ、それを不服とした会員により、次々と預託金返還請求訴訟が提起されるに至りました。

3.裁判所の判断
 各々のゴルフクラブは、据置期間の延長をするにあたっては会則に従って対応しているところ、会則には、「理事会決議により据置期間を延長することができる。」とされているものや、「天災、地変その他の不可抗力の事態が発生した場合は、理事会の決議により据置期間を延長することができる」とするものや、「天災、地変その他の不可抗力の事態が発生した場合、クラブ運営上又は会社経営上やむを得ない場合は、理事会の決議により据置期間を延長することができる」等があります。
 しかし会員にしてみれば、据置期間が過ぎれば預託金返還請求権が発生するところ、理事会等で一方的に据置期間を10年間延長等されたら、たまったものではないですよね。約束と違うと。
 最高裁は、「天変地異その他クラブの運営上やむを得ない事由がある時は、理事会、ゴルフクラブ経営会社の取締役会の決議などにより、据置期間の延長をすることができる」との会則を有するゴルフクラブに対する預託金返還請求訴訟において、預託金の据置期間の延長決議は無効であるとする控訴審判決を支持する判断を示しました(最二平11.10.8/金融・商事判例1094号6頁)。これにより、預託金の据置期間の延長決議の有効性を巡る問題は一応の決着をみるにいたったといわれています(「ゴルフクラブをめぐる裁判例の動向」東京高裁判事井上繁規(銀行法務21No.610))。
 据置期間をゴルフクラブ運営会社が自ら定めているということは、その時期が来れば預託金返還請求が多数なされる可能性は予測可能であるのだから、経済事情の変動等も考慮した上で経営にあたるべきであって、その見通しミスを会員に転化してはならないという判断なのでしょう。

4.注意点
 但し、もちろん会員の同意が得られれば、据置期間を延長することは可能です。そこで、ゴルフクラブ運営会社によっては、据置期間延長の理事会決議への同意書の提出を求めたうえで、据置期間の延長契約を個々の会員との間で締結するケースがあります。
 皆さんのところにそのような書類が送られてきた場合、預託金の返還を希望する(退会とセットになりますが)のであれば、同意書は提出せずに、ゴルフクラブ運営会社と交渉することをお勧めします。但し、ゴルフクラブ運営会社にしてみれば、1人に預託金を返還すると、次々に返還請求をする会員が現れるのではないか、そうなれば経営が立ち行かなくなるのではないか、との懸念から、会員からの請求には一切応じないというケースもありえます。私が担当したケースでも、会員であるクライアントが交渉をしても、一切応じなかったゴルフクラブ運営会社が、私が代理人となり訴訟を提起したところ、満額の返金に応じたということがありました。
預託金返還請求にあたりゴルフクラブ運営会社との交渉がうまくいかないということがございましたら、専門家へのご相談をお勧めいたします。

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