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2022.03.28
小澤 崇行

公益通報者保護法の改正

令和2年6月に公益通報者保護法の一部が改正され、同改正法は本年(令和4年)6月1日から施行されることになります。法改正の内容は多岐にわたりますが、以下、主な改正点等について説明いたします。

1 法改正の経緯
 リコール隠しや食品偽装といった消費者の信頼を裏切るような企業不祥事が内部関係者からの通報を契機として明らかとなったことを受け、平成16年6月、通報者の保護を図るとともに、事業者等の法令遵守を図り、もって国民生活の安定及び社会経済の健全な発展に資することを目的として、公益通報者保護法が制定されました。
 事業者内部等様々な通報先において適切な通報処理体制が整備され、また、通報者の保護が適切に行われることにより、内部通報が活発に行われた場合には、組織の自浄作用の向上やコンプライアンス経営の推進に寄与することになると考えられるほか、違法な事業活動等を早期に発見することが可能となるものと思われます。そして、これらの結果、社会全体の利益にもつながるものと考えられます。
 しかしながら、近年、内部通報制度が機能せず事業者の自浄作用が発揮されなかった結果、国民生活の安心や安全を損なうような企業不祥事が発生し、社会の耳目を集めることも多くありました。また、労働者における公益通報者保護制度の認知度が低い状況が確認されるなど、必ずしも同法が期待された役割を十分に果たしているとはいえない状況でした。
 このような経緯を踏まえて公益通報者保護法の見直しに向けた検討が行われ、令和2年6月、公益通報者保護法の一部改正に至りました。

2 保護される主体の追加
 公益通報を行った者に対する通報をしたことを理由とする解雇が無効とされ、また、当該理由により公益通報者に降格や減給等の不利益な取扱いをすることが禁止されるなど、公益通報者保護法では、公益通報を促すため通報者の保護が図られています。
 その中で、今回の法改正では、労働者や派遣労働者、請負事業者等の取引先の労働者や派遣労働者に加えて、退職者や元派遣労働者についても保護の対象に追加されることになりました(改正法第2条第1項第1号~3号)。ただし、退職者や元派遣労働者の全てが対象とされてはおらず、その範囲は、退職してから(派遣労働者の場合は、当該事業者における労働者派遣が終了してから)1年以内に通報を行った者に限られます。
 また、改正前は、役員については、公益通報者に含まれていませんでした。しかしながら、今回の法改正により、法人の取締役、執行役、会計参与、監査役、理事、監事、清算人、これら以外の者で法令(法律及び法律に基づく命令をいいます。)の規定に基づき法人の経営に従事している者(ただし、会計監査人は除かれます。)も公益通報者に含まれることになりました(改正法第2条第1項第4号)。

3 行政機関等への公益通報についての要件緩和
 改正前公益通報者保護法では、事業者の正当な利益が不当に害されないようにするため、行政機関等への通報が公益通報として保護されるためには、真実相当性の要件、すなわち、通報対象事実(同法による保護の対象となる事実)が生じ、又はまさに生じようとしていると「信ずるに足りる相当の理由がある」ことが必要とされていました。
 これに対し、改正後は、真実相当性の要件を満たす通報に加えて、同要件を満たさない場合であっても、以下の事項を記載した書面や電子メール等を提出する方法による通報については、公益通報として保護されることになりました(改正法第3条第2号)。
 ①氏名又は名称及び住所又は居所
 ②通報対象事実の内容
 ③当該事実が生じ、又はまさに生じようとしていると思料する理由
 ④当該事実について法令に基づく措置その他適当な措置がとられるべきと思料する理由

4 公益通報を理由とする損害賠償請求の禁止
 公益通報が外部に行われた場合、結果として、事業者の信用が毀損されるなど、当該事業者に損害が生じることも考えられます。この点、改正前公益通報者保護法は、事業者が公益通報者に対して損害賠償の請求をした場合の定めを設けるといった手当は特になされていませんでした。しかしながら、他方で、そのような請求を受けることを懸念して公益通報をすることに消極的な状況があると考えられました。
 このような状況を受けて、改正法では、事業者が公益通報者に対して、「公益通報によって損害を受けたことを理由として」賠償を請求することはできない旨の規定を新設することとされました(改正法第7条)。

5 公益通報者対応業務従事者の選定の義務化等
 今回の法改正のうち、事業者に直接影響を与えることになる内容の一つとして、各事業者に対して公益通報対応業務従事者、すなわち、公益通報を受け、通報にかかる事実を調査し、その是正に必要な措置を取る業務に従事する者を定めることが義務付けられた点を挙げることができます(改正法第11条)。
 公益通報対応業務従事者(過去に公益通報対応業務従事者であった者も含まれます。)については、正当な理由がある場合を除き、公益通報対応業務に関して知り得た事項であって公益通報者を特定させるものを漏えいしてはならないとされています(改正法第12条)。改正法第12条に違反して当該事項を漏えいした場合、30万円以下の罰金が科される可能性がありますので(改正法第21条)、公益通報対応業務従事者に選定された従業員は、この点に注意する必要があるといえます。
 なお、公益通報対応業務従事者を選定する義務については、常時使用する労働者の数が300名を超える事業者のみが負うものとされており、その数が300名以下の事業者については、公益通報対応業務従事者を選定する努力義務を負うことになります(改正法第11条第3項)。

6 公益通報に適切に対応するための体制の整備等の措置の義務付け
 公益通報対応業務従者の選定の義務化の他、法改正により直接事業者に影響を与えることになるものとして、各事業者は、公益通報に適切に対応するために必要な整備その他の必要な措置をとる義務を負うこととされました(改正法第11条第2項)。
 同義務を果たすためにどのような措置を取ることが必要となるかについては、「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針」(令和3年8月20日内閣府告示第118号)が参考となります。
 同指針には、上記必要な措置として、①部門横断的な公益通報対応業務を行う体制の整備としての各措置、②公益通報者を保護する体制の整備としての各措置、及び③内部公益通報対応体制を実効的に機能させるための措置としての各措置が挙げられています。そして、これらの各措置の趣旨や具体例については、消費者庁が公表している「公益通報者保護法に基づく指針(令和3年内閣府告示駄118号)の解説」により確認することが可能です。事業者としては、上記指針や同解説を参照にしつつ、公益通報に適切に対応するための体制の整備等を行うことが求められることになります。
 なお、上記義務についても、常時使用する労働者の数が300名以下の事業者については、努力義務を負うものとされています(改正法第11条第3項)。

以 上

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