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2022.02.25
八木 仁志

民事裁判手続のIT化

コロナ禍の影響で、テレワークが進展し、リモートアクセス環境の整備が進んでいます。従来の日本の裁判手続は、裁判所に出頭した上で、当事者や裁判所とのやりとりはFAXや電話によるものが原則でしたが、近時Teamsを利用したWeb会議方式で裁判手続を実施し、当事者双方が裁判所に出頭せずに手続が進む事件が増えてきました。そこで、民事裁判手続におけるIT化の現状をご紹介します。

1.外国の状況
日本の裁判手続のIT化は諸外国に比べて大幅に遅れているといわれています。

例えば、アメリカでは、アメリカの連邦裁判所に対して事件の申立てや、書面の提供を電子的に行うことや(e-filing)、裁判官ごとのヒヤリングスケジュールを裁判所HPで公表し、記録の提出忘れや追完などをメールで連絡し(e-Case Management)、連邦裁判所に係属する事件記録が全て閲覧・ダウンロードでき、利害関係人だけではなく、一般人も閲覧・ダウンロード可能とされています。

また、コロナ禍前に韓国の裁判所を見学する機会がありましたが、裁判所が運営する電子訴訟システムを利用した電子訴訟が、民事・家事・行政、破産・再生、非訟事件に拡大されており、電子訴訟に同意した当事者は、訴状、答弁書及び準備書面や証拠をアップロードする方法により提出することができ、送達もeメール等により可能とのことでした。また、訴訟記録もシステムに当事者がアクセスして閲覧、ダウンロードすることができ、当事者が紙媒体や電子データで個別に管理する必要はないとの説明を受けました。日本との余りの違いに驚愕した記憶があります。

2.日本の検討状況及び現状
一方、日本では、2017年10月に裁判手続等のIT化検討会が立ち上げられ、2018年3月に「裁判手続等のIT化に向けた取りまとめ-「3つのe」の実現に向けて-」が発表され、フェーズ1からフェーズ3を経て裁判手続のIT化を進めることを提案しています。すなわち、まずフェーズ1として、「法改正を要することなく現行法の下で、IT機器の整備や試行等の環境整備により実現可能となるものについて、速やかに実現を図っていく、例えば、電話会議に加えてウェブ会議等のITツールを積極的に利用したより効果的・効率的な争点整理の試行・運用を開始して、その拡大・定着を図る。」(e法廷の先行実現)、次にフェーズ2として、「所要の法整備を行い、双方当事者の出頭を要しない第1回期日や弁論準備手続期日等を実施する」(e法廷)、フェーズ3として、「関係法令の改正とともにシステム・ITサポート等の環境整備を実施した上で、オンライン申立て等への移行等を図る。」(e提出及びe事件管理)というものです。今般2022年2月14日に法制審議会が法務大臣に対して民事裁判手続のIT化などに関して答申を行い、法務省は今の国会に民事訴訟法改正案を提出し、成立を目指すとしています。

現状はフェーズ1の段階であり、私自身もTeamsを用いたWeb会議の方法による裁判手続をいくつか経験しています。もっとも、依然として第1回口頭弁論期日には訴状を陳述するために原告の出頭が必要とされており、和解を成立させるためには当事者の一方が裁判所に出頭する必要があります。なお、Teamsを用いたWeb会議の方法で当事者双方が裁判所に出頭せずに争点整理を行った上で、和解交渉に当たりましたが、裁判官の顔色や反応を画面越しで把握しなければならず、直接面前で裁判官とやりとりする場合に比べて時折やりにくさを感じることもありました。従前から行われている電話会議による弁論準備手続の場合も裁判官の反応を探るべく様々な工夫をしていたところですが、Web会議の方式の場合も裁判官の反応を引き出すコミュニケーションの取り方を工夫していくことが必要であろうと思います。

3.雑感

裁判手続のIT化が進んで便利になることは喜ばしいことですが、出張大好き人間としては、泊りがけの地方出張でご当地グルメに舌鼓を打ちつつ、普段とは異なる環境に身を置き、多少なりとも解放感に浸るといった、地方出張ならではの楽しみが少なくなってしまうのは非常に悩ましいところです。
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