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2022.11.02
田中 健夫

改正相続法の概要(前半)

平成30年7月に、相続法制の見直しを内容とする「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」と、法務局において遺言書を保管するサービスを行うこと等を内容とする「法務局における遺言書の保管等に関する法律」(以下、これらをあわせて「改正相続法」といいます。)が成立し、これらの改正相続法の各規定は、平成31年1月13日~令和2年7月10日にかけて段階的に施行されました。
以下、これらの改正の経緯や主な改正内容について、前半と後半の2回に分けて概説させていただきたいと思います(前半は「1 法改正の経緯について」と「2 配偶者の保護に関するもの」について、後半は「3 遺言の利用促進に関するもの」、「4 相続人を含む利害関係者間の公平の促進に関するもの」について概説させていただきたいと思います)。

1 法改正の経緯について
民法における相続に関する規定は、昭和55年に改正されて以来、大きな見直しはなされてきませんでした。
しかし、今日に至るまでの間、社会の高齢化の進展に伴い、被相続人の死亡により残された配偶者の年齢も相対的に高くなってきております。そのような配偶者の保護の必要性が高まるなど、社会経済情勢に変化が生じており、そのような変化に対応するため、相続法制が見直されることとなりました。
今回の改正では、主に、被相続人の配偶者の保護、遺言の利用促進、相続人を含む利害関係者間の公平の促進などの方策が図られることとなりました。
以下、主な改正内容の要点を説明させていただきます。

2 配偶者の保護に関するもの
配偶者居住権(長期的な保護)
ア 内容
配偶者が相続開始時に居住していた被相続人所有の建物を対象として、終身又は一定期間、配偶者に建物の使用を認めることを内容とする法定の権利(配偶者居住権)が新設されました(民法第1028条以下)。
遺産分割における選択肢のひとつとして、あるいは、被相続人の遺言等によって、配偶者に配偶者居住権を取得させることができるようになりました。
イ 趣旨
旧法下では、被相続人の死亡により残された配偶者が従前の住居に居住するためには、遺産分割により建物の所有権を取得することなどが必要でした。
しかし、不動産の価額は高額となることが少なくなく、他にも相続人がいる場合に、当該配偶者は建物を取得する代わりに他の遺産(現預金等)を取得できなくなり、建物の維持や生活に支障が出るケースがありました。
そこで、改正法は、残された配偶者の生活への配慮の観点から、配偶者について原則として死亡までの間、無償で当該住居に居住することができる法定の権利を新設しました。
配偶者居住権の評価額は、不動産の所有権の評価額より低くなるため、残された配偶者は、建物の所有権を取得する場合と比べ、他の遺産(現預金等)を取得できるケースが多くなることが見込まれます。
ウ 要件
配偶者が相続開始時に被相続人の所有建物に居住していたこと
遺産分割や遺贈や死因贈与によって配偶者が配偶者居住権を取得するものとされたこと
なお、被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合には配偶者居住権は認められませんので、注意が必要です。
エ 効果
建物全部についての無償の使用収益権
なお、存続期間については、遺産分割協議、遺贈又は遺産分割審判において特段の期間の定めをした場合を除き、配偶者の終身の間
所有者に対する配偶者居住権の登記請求権
などとなります。

配偶者短期居住権(短期的な保護)
ア 内容
配偶者が相続開始時に被相続人所有の建物に無償で居住していた場合、以下の期間、居住建物を無償で使用できる権利(配偶者短期居住権)を取得するとされました(民法第1037条以下)。
配偶者が居住建物の遺産分割に関与する場合には、居住建物の帰属が確定するまでの間(但し、最低でも相続開始の時から6か月間は保障)
居住建物が第三者に遺贈された場合や、配偶者が相続放棄をした場合には、居住建物の所有者から消滅請求を受けてから6か月
イ 趣旨
旧法下では、判例法理(最判平成8年12月17日)により、被相続人の共同相続人のひとりが相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居していた場合、特段の事情のない限り、被相続人と当該同居の相続人との間で、被相続人が死亡し相続が開始した後も、遺産分割により当該建物の所有関係が最終的に確定するまでの間は、使用貸借関係が継続する旨の使用貸借契約が成立したと推認し、その保護が図られる場合がありました。
しかし、第三者に居住建物が遺贈されてしまった場合や、被相続人が反対の意思を表示した場合など、上記のような使用貸借契約の成立が推認されない場合に、保護に欠ける場合のあることが想定されていました。
そこで、改正法は、残された配偶者が被相続人の建物に居住していた場合には、被相続人の意思にかかわらず配偶者短期居住権により保護することとし、被相続人が居住建物を配偶者以外の第三者に遺贈した場合や、反対の意思を表示した場合であっても、配偶者の居住が保護されるようにしました。
ウ 要件
配偶者が相続開始時に被相続人の所有建物に無償で居住していたこと
なお、配偶者が、相続開始時に前記2の(1)の配偶者居住権(長期)を取得したときや、相続権を失ったときなどは、配偶者短期居住権は認められません。
エ 効果
建物全部または一部についての無償での使用権(但し、収益権限はなし)
存続期間については、上記アの①及び②のとおり
などとなります。
当該居住建物の所有権を相続又は遺贈等により取得した者に対して有する当該居住建物(その一部のみを無償で使用していた場合はその部分に限る)に無償で一定期間居住することができる債権となります。

持戻し免除の意思表示推定規定
ア 内容
婚姻期間が20年以上の夫婦の一方が、他の一方に対し、その居住用建物又はその敷地を贈与あるいは遺贈したときは、民法第903条第3項の持戻し免除の意思表示があったものと推定される旨の規定が置かれ、遺産分割において、原則として当該居住用建物等の価額を特別受益として扱わずに計算できるようになりました(民法第903条第4項)。
イ 趣旨
旧法下では、被相続人が配偶者に自宅の遺贈や贈与を行っても、それは、原則として特別受益にあたるとされ、遺産分割の際の配偶者の具体的な相続分の算定において、原則として遺産の先渡しを受けたものとして扱われ、配偶者が最終的に取得する財産額は、結果的に贈与等がなかった場合と同じとなり、被相続人が贈与等を行った趣旨が遺産分割の結果に反映されないケースがありました。
婚姻期間が長期にわたる夫婦の一方の他方に対する居住用不動産の贈与や遺贈は、その長年にわたる貢献に報いるとともに、老後の生活保障の趣旨でなされる場合が多く、遺産分割における配偶者の相続分を算定するにあたり、その価額を控除してこれを減少させる意図は有していない場合が多いと考えられます。
そこで、改正法は、一定の要件の下、被相続人の持ち戻し免除の意思表示が推定される旨の規定を設け、配偶者の生活保障を図ることとしました。
ウ 要件
夫婦の婚姻期間が20年以上であること
居住用建物又は土地を贈与あるいは遺贈したこと
エ 効果
被相続人の持ち戻し免除の意思表示が推定され、遺産分割において、他方配偶者への居住用建物又は土地の贈与あるいは遺贈について、原則として遺産の先渡しを受けたものとして扱われずに済むこととなります。
前半は以上となります。

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