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2022.07.15
鈴木 丈仁

犯罪被害者等による刑事裁判への関与手続

犯罪被害者やそのご遺族等(以下「被害者等」といいます。)が刑事裁判へ参加することができる被害者参加制度等の刑事裁判への関与制度が導入されて10年以上が経過しました。
導入以前は、犯罪被害者等は、証人として証言する必要がある場合に刑事裁判に関与するのみであり、いわば「証拠」と同様に扱われてきたといわれていましたが、平成19年の刑事訴訟法等の改正により、被害者参加制度等が導入され、現在では、被害者等が刑事裁判に被害者参加等される事件は少なくありません。
被害者参加制度等は、被害者等が刑事裁判へ関与できる重要な権利です。
そこで、今回のコラムでは、被害者参加制度をはじめとした被害者等による刑事裁判への関与手続について説明いたします。

1 被害者参加(刑事訴訟法316条の33~316条の39)
⑴ 対象事件
 被害者参加が認められる事件は、故意の犯罪行為により人を死傷させた罪、刑法に定められたわいせつの罪、逮捕監禁・業務上過失致死傷・重過失致死傷・略取誘拐等の罪、交通事故に関する罪といった刑事訴訟法316条の33第1項に規定された罪に関する事件です(残念ながらすべての罪の被害者等が被害者参加することができるわけではありません。窃盗や詐欺等の被害者等は被害者参加できません。)。
⑵ することができる訴訟行為等
 被害者参加した被害者等(以下「被害者参加人」といいます。)は、以下の訴訟行為等をすることができます。
 ① 公判期日への出席
   被害者参加人は、傍聴席ではなく、検察官席に座って裁判に参加することができます。
 ② 証人に対する尋問
   被害者参加人は、被告人の監督を制約する被告人の親族等の証人に対し、直接、質問をすることができます。
   ただし、質問ができる事項は、被告人の量刑にかかわる情状に関する事項についての証言の信用性に関する事項に限られ、犯罪事実に関する事項について質問することはできません。
 ③ 被告人に対する質問
   被害者参加人は、被告人に対し、直接、質問することができます。②の場合と異なり、質問できる事項に制限はありません。
 ④ 弁論としての意見陳述
   被害者参加人は、当該事件の事実関係や法律の適用について意見を陳述することができます。検察官の求刑と同様に、被告人に科すべき刑についての意見(科刑意見)も陳述することができます。
⑶ 被害者参加人に対する保護措置
 被害者参加はしたいけど、被告人や傍聴人がいる法廷で刑事裁判に参加するのに不安を感じたり、被告人や傍聴人から姿を見られるのは嫌だという方もいらっしゃるかと思います。そのような方のために、以下の保護措置が設けられています(ただし、一定の要件の下、裁判所が認めた場合に限ります。)。
 ① 付添人による付添い
   被害者参加人の不安や緊張を和らげるのに適した方に付き添ってもらうことができます(例えば、被害者支援を行っている団体の職員等)。
 ② 遮へい措置 
   被害者参加人と被告人や傍聴人との間に衝立を設置して、被告人や傍聴人から姿を見られないようにしてもらうことができます。
⑷ 弁護士への委託
 被害者等は、弁護士を選定して、弁護士に被害者参加制度において認められている訴訟行為等を行ってもらうこともできます。すべてを弁護士に委託することもできますし、一部は自ら行い、その他を弁護士に委託することもできます。
 被害者参加制度において認められている訴訟行為等は、専門的知識を必要とするものもありますから、弁護士を選定すれば、様々なサポートをしてくれます。
 なお、弁護士を選定する経済的余力がない被害者参加人でも弁護士からサポートを受けられるように、国が費用を負担して裁判所が被害者参加人のために弁護士を選定する国選被害者参加弁護士制度も導入されています。

2 心情意見陳述(刑事訴訟法292条の2)
 被害者等が、裁判所に対して、直接、被害に遭った際の恐怖、苦痛、被告人に対する処罰感情等を陳述することができます。裁判の際に自ら口頭で陳述すること(事前に作成した文書を読み上げる方法でも可能です。)もできますし、事前に作成した文書を検察官に提出しておき、裁判の際に、裁判官等に代読してもらって陳述することもできます。
 この意見陳述で陳述された事実は、被告人の量刑判断の資料とすることはできますが、犯罪事実の認定のための証拠とすることはできません。
 なお、被害者参加制度とは異なり、対象事件に限定はありません。
 また、被害者参加の場合と同様に付添人による付添いや遮へい措置のほか、法廷と別室をケーブルで結び、被害者等が別室からモニターを通じて意見陳述をするビデオリンク方式という保護措置も設けられています。

3 損害賠償命令制度(犯罪被害者保護法23条~40条)
 損害賠償命令制度が導入される前は、被害者等が犯人に対して損害賠償請求等の民事上の責任を追及するためには、刑事裁判とは別に、民事訴訟を提起しなければなりませんでした。刑事裁判と民事裁判は別ですので、仮に、犯人が刑事裁判で有罪判決を受けていたとしても、民事訴訟において、刑事訴訟記録を取り寄せて提出したり、証人尋問を行って犯人による犯罪行為(加害行為)を証明しなければならず、被害者等の負担が大きいものでした。
 損害賠償命令制度は、刑事裁判の結果を利用して犯人(被告人)に損害賠償請求するものであり、別途、民事訴訟を提起する場合と比べて、被害者等の負担が軽減されています。
 刑事裁判の弁論終結時までに当該刑事裁判が係属している裁判所に対して損害賠償命令の申立てを行えば、刑事裁判の有罪判決の言い渡し後、直ちに損害賠償命令の申立ての審理に移行します。有罪判決を言い渡した裁判体が審理するため、刑事裁判の証拠をそのまま利用でき、犯人(被告人)が犯罪行為を行ったことを前提に審理がなされますから、被害者等が犯人(被告人)による犯罪行為を証明する必要はありません。また、損害賠償命令の申立ての審理は、原則として4回以内の期日で審理を終結させなければなりませんので、迅速な手続で行われます。
 なお、損害賠償命令の申立てを行うことができる事件は、業務上過失致死傷、重過失致死傷及び交通事故の罪が除かれるほかは被害者参加の場合と同様です。

4 刑事和解(犯罪被害者保護法19条~22条)
 刑事和解の制度は、被害者等が被告人との間で、被害に遭った犯罪事実に関して民事上の和解を成立させた場合に、当該刑事裁判が係属している裁判所に対して弁論終結時までに申立てを行い、それを公判調書へ記載してもらう制度です。和解が成立した旨が記載された公判調書は、民事訴訟を提起して和解が成立した場合と同様に、債務名義の効力を有するとされ、仮に、被告人が和解内容を履行しなかったときには、この公判調書をもとに強制執行手続に移行することができます。

5 おわりに
 被害参加制度をはじめとした被害者等が刑事裁判に関与できる制度は、被害者等に認められた重要な権利です。
 私は、検事在職時、被害者等が被害者参加された事件の裁判を数多く担当させていただきましたが、多くの被害者等から「参加してよかった。」というお声をいただきました。
 検事在職時の経験を活かしつつ、弁護士の立場から、被害者等の皆様のお役に立てたらと思っております。

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