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2024.04.08
岩佐 和雄

製造物責任 国際裁判管轄と準拠法

製造物責任_国際裁判管轄・準拠法

昨今は、国際的サプライチェーンや国際的な物流が活発であり、国内で製造された製品が海外で流通・使用されるケースもこれまで以上に多くなっています。海外所在の個人や法人が、国内で製造された製品の欠陥により、被害を受けることも多くなっています。国内で製造に関与した企業の方も、海外で発生した被害がどのように国内所在の自社に波及してくるのかを把握しておくことはリスク管理の点からも重要です。そこで、本稿では、製造物責任を念頭に、責任追及の前提となる国際裁判管轄や準拠法の点について簡潔に原則論を説明することとします。

1 設例

日本の製造業者等であるS株式会社(本店所在地東京都千代田区。S社とします)が製造・加工・輸入した製造物に欠陥があり、外国(A国とします)の人や法人(ここではHとします)が、その欠陥により身体・生命・財産を侵害され損害を受けた場合、Hは、日本の裁判所に訴えを提起できるでしょうか。また、日本の裁判所はどの国の法を準拠法とすることになるでしょうか。

設例の場合には、

ア Hが、A国の裁判所で訴え提起して救済を受ける場合と、
イ Hが、日本の裁判所に訴え提起して救済を受ける場合があります。

前者の場合にも後述のようにA国裁判所での国際裁判管轄や準拠法の問題が出てきますが、その点がクリアされても、A国にS社の資産がなければそもそも執行対象がありません。かといってA国裁判所の判決を日本で執行するには、A国裁判所の判決を日本の裁判所で承認してもらう必要があります(外国裁判所の判決の執行判決。民事訴訟法第118条、民事執行法第24条)。このルートはA国の裁判所の判決と日本での執行判決が必要になるため、手続が想定以上に複雑になることもあり、また、日本での執行判決は、相互主義(A国でも日本の裁判所の判断・判決が承認されるか)の観点や公序などの点から困難な場合も少なくありません。[1]

そのため、以下では、設例の場合に、シンプルに、HがS社を相手にして日本の裁判所に訴え提起することができるかを見てみましょう。

2 受訴裁判所

(1)国際裁判管轄

日本の裁判所がその事件の実体を審理・判断する権限を有するのかという問題を国際裁判管轄(管轄権)といいます。日本の民事訴訟法では、「日本の裁判所の管轄権」として、第3条の2から第3条の12で規定が置かれています。

管轄原因を定める規定は、国内裁判所の土地管轄を定める際の普通裁判籍・特別裁判籍に相当する、原則的管轄と特別管轄に分けて規定が置かれています。このうち原則管轄を定めた第3条の2第3項は、「裁判所は、法人その他の社団又は財団に対する訴えについて、その主たる事務所又は営業所が日本国内にあるとき、事務所若しくは営業所がない場合又はその所在地が知れない場合には代表者その他の主たる業務担当者の住所が日本国内にあるときは、管轄権を有する。」としています。

S社は日本国内に本店所在地を有していますので、原則管轄により日本の裁判所が管轄権を有していることになり、Hが、自己を原告とし、S社を被告として、日本の裁判所に訴えを提起しうる(日本の裁判所が管轄権を有する)ことになります。

(2)管轄

なお、日本の裁判所の管轄権が認められるとして、日本の裁判所の中のどの裁判所に管轄があるかは、国内の裁判所の管轄の定めによることになります。

たとえば、S社が東京都(仮に23区内とします)に本店を有していれば、少なくとも東京地方裁判所には訴え提起できることになります。すなわち、民事訴訟法第4条第1項は「被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所の管轄に属する。」とし、同第4項は「法人その他の社団又は財団の普通裁判籍は、その主たる事務所又は営業所により、事務所又は営業所がないときは代表者その他の主たる業務担当者の住所により定まる。」としておりますので、この規定に基づいて東京地方裁判所が管轄を有することになります。

3 準拠法

訴えを提起する日本の管轄裁判所が決まったとして、さらに当該裁判所が、どの国の法律を適用して事件を審理し判決を下すのか、すなわち準拠法は何国法となるのかが問題となります。

準拠法の決定については、「法適用に関する通則法」の第17条が不法行為の際の準拠法について規定しています。同条は、加害行為の結果が発生した地の法、すなわち結果発生地法を原則としながら、その地における結果発生が(行為者側に)通常予見することができない場合には、加害行為が行われた地の法によるとしています。

法適用に関する通則法
(不法行為)
第十七条 不法行為によって生ずる債権の成立及び効力は、加害行為の結果が発生した地の法による。ただし、その地における結果の発生が通常予見することのできないものであったときは、加害行為が行われた地の法による。

そして、さらに、生産物責任(製造物責任を含むと解されます)については、同第18条で、被害者が生産物の引き渡しを受けた地の法、これが通常予見することができない場合には生産業者等の主たる事業所の所在地の法となっています。

法適用に関する通則法
(生産物責任の特例)
第十八条 前条の規定にかかわらず、生産物(生産され又は加工された物をいう。以下この条において同じ。)で引渡しがされたものの瑕疵かしにより他人の生命、身体又は財産を侵害する不法行為によって生ずる生産業者(生産物を業として生産し、加工し、輸入し、輸出し、流通させ、又は販売した者をいう。以下この条において同じ。)又は生産物にその生産業者と認めることができる表示をした者(以下この条において「生産業者等」と総称する。)に対する債権の成立及び効力は、被害者が生産物の引渡しを受けた地の法による。ただし、その地における生産物の引渡しが通常予見することのできないものであったときは、生産業者等の主たる事業所の所在地の法(生産業者等が事業所を有しない場合にあっては、その常居所地法)による。

よって、設例では、Hが、対象となる製造物の引き渡しを受けた場所が、日本国内であれば日本法が準拠法となり、A国など外国であれば原則として当該外国(A国)の法が準拠法となります。

もっとも、Hが転売等でS社以外の第三者から製造物を譲り受けていた等で、具体的な事情の下、S社において、HがA国など外国で引き渡しを受けることが通常予見できないような場合には、S社の本社がある日本の法が準拠法となる余地があることになります。

例えば、Hが訪日して対象となる製造物を購入し引き渡しを受けていたという場合は、日本法が準拠法となり、A国で引き渡しを受けていればA国法が準拠法となるのが原則となりますが、S社が日本限定で対象製造物を販売しており、A国での引き渡しがなされることは通常予見できないような場合には、日本法が準拠法になる余地が出てくることになります。

なお、準拠法が仮にA国法になったとしても、公序による制限というものがあります。すなわち、法適用に関する通則法では、日本における公の秩序の観点から、ある事実が、A国法では不法との評価を受けたとしても、日本法では不法との評価がなされない場合には、A国法に基づく不法を前提とする損害賠償等はできないとされています。

法適用に関する通則法
(不法行為についての公序による制限)
第二十二条 不法行為について外国法によるべき場合において、当該外国法を適用すべき事実が日本法によれば不法とならないときは、当該外国法に基づく損害賠償その他の処分の請求は、することができない。
2 不法行為について外国法によるべき場合において、当該外国法を適用すべき事実が当該外国法及び日本法により不法となるときであっても、被害者は、日本法により認められる損害賠償その他の処分でなければ請求することができない。

また、A国法では、製造物責任に懲罰的賠償などが認められていても、日本の裁判所が判断する際には、上の条文により、当該懲罰的賠償は認容されないことになります。[2]

4 まとめ

以上のように、法的な観点からは、日本国外に国籍を有し又は日本国外に本店所在地を置く会社(法人)であっても、S社への製造物責任を主張して日本の裁判所に訴訟提起することができます。もっとも、判決を求めるのは、最終的に執行手続を利用するためであるため、S社の資産がどこにあるか、S社がどのような対応をするか等により、訴訟とすべきか他の手段によるべきかなど、具体的な対応方法を選択していくことになります。日本以外の国は各国ごとに制度が異なるため、実際には各国の法制度も念頭に置き、比較検討の上で日本の裁判所に訴え提起をしていくか否かを決定するのが安全でしょう。

[1] 例えば、中華人民共和国につき東京地方裁判所平成27年3月20日判決(平成24年(ワ)第6690号)、同控訴審の東京高等裁判所平成27年11月25日判決(平成27年(ネ)第2461号)、大阪高等裁判所平成15年4月9日(平成14年(ネ)第2481号)などは執行判決認められず。

 

[2]不法行為の一種である著作権侵害の判断において、法適用に関する通則法第22条に言及した例として、第一審:東京地方裁判所平成23年3月2日判決_平成19年(ワ)第31965号、控訴審:知的財産高等裁判所平成23年11月28日判決_平成23年(ネ)第10033号があります。外国法と日本法が重畳適用される形となり、具体的事実のレベルで外国法及び日本法双方で不法である必要があるとされています。また、製造物責任法施行前の製造物責任たる不法行為につき、法適用に関する通則法の施行時期の関係で事案の一部に法令が適用されたため、法適用に関する通則法第22条及び同趣旨の法例第11条第2項の双方に触れるものとして東京地方裁判所平成10年5月27日判決(平成4年(ワ)第1523号)があります。ドイツ法と日本法の重畳適用を前提にしています。

(参考)法例
第十一条 事務管理、不当利得又ハ不法行為ニ因リテ生スル債権ノ成立及ヒ効力ハ其原因タル事実ノ発生シタル地ノ法律ニ依ル
2前項ノ規定ハ不法行為ニ付テハ外国ニ於テ発生シタル事実カ日本ノ法律ニ依レハ不法ナラサルトキハ之ヲ適用セス
3外国ニ於テ発生シタル事実カ日本ノ法律ニ依リテ不法ナルトキト雖モ被害者ハ日本ノ法律カ認メタル損害賠償其他ノ処分ニ非サレハ之ヲ請求スルコトヲ得ス

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